2024年8月29日木曜日

Can you see it? Genji

こんにちは。最近 "ドーナツ" なるものを揚げております。

真ん中に穴が空いたリング上の丸い形にこんがりときつね色に揚がった"ソレ" は、見るもの全てに幸福感を与える、それはまるで、世界平和を目指したザ・ビートルズのリーダー、ジョン・レノンの"イマジン"のレコードを彷彿させるかの様なおやつ。

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小さな頃、四六時中お腹が減ったと騒ぐ僕に、勉学に励む時間を割かれてなるものか、と、痺れを切らした姉がこれでも食ってろ。と、ごく稀に揚げてくれていたドーナツ。

当時まだ小学生の高学年だった姉が揚げてくれるドーナツはゴツゴツとしたフォルムに窮屈そうに空いた穴、色もまばらできつね色のものもあれば焦げ茶色もあったりとお世辞にも評価されるビジュアルではありませんでした。けれど、威風堂々としたその姿、バラエティ豊かなその表情は僕の心をいつも踊らせ、僕の中に強く残る美味しいドーナツの残像は、規則的に並ぶ有名チェーン店のソレよりも姉が揚げてくれた武骨な"ソレ"なのである。

やがて姉も成長し、互いに自分の社会が構築されていく中、いつの間にか関わることは減り、僕がなにかをせびる事も、姉が僕になにかを与える事も必要なくなっていった。

そんなある日、同級生とドーナツショップで"オールドファッション"なるものを食べていると突然"ソレ"の存在を思い出した。
これじゃない。俺が食いたいドーナツはあの姉のドーナツ。"弁慶"の様な武骨ドーナツだ。
その話を居合わせた友人に話すと、彼もそれに強く同意しその友人宅でそのドーナツを再現してみることになった。
(当時姉は宮城から離れ、作ってもらうことは不可能でした)

友人宅につき早速調理を始める僕ら、料理など皆無な我々に勝算等なくただただイメージで粉を揚げるも大失敗を繰り返す僕ら。
そんな最中友人が

そろそろ親が帰ってきてしまう。だが俺はどうしてもお前の言う武骨なドーナツを食べたい。家で揚げ続けると叱られてしまうから外にコンロを出しそこで再開しよう。

そんな提案があった。

なぜ外での調理だと叱られないのかは謎であったが(てか普通に怒られまくったが)その提案に同意した僕は、野外でまた調理を再開。
もはや我々にはあのドーナツをどうしても完成させたいと言う意思のもと、強い連携が生まれはじめていた。

外には彼が飼っていたハスキー犬のゲンジ(男)が待ち構えており彼も楽しそうに僕らを応援している様であった。

何度目かの生地の成形で僕らは手応えを感じた。
あとは揚げるだけ、そんな状態になった頃、激しい腹痛に襲われた。僕は彼にその旨を告げトイレをお借りすることに(幾度となく失敗作を食べ続けていたからだ)

用を足していると外から



"うわあぁああいいいいいぃいひぃぃぃ!!!!!!"

笑い声とも悲鳴ともはたまたロックミュージシャンのシャウトとも取れる音が外で木霊した。

勢いよくズボンを上げドタバタと外に出ていくと、暗かったはずの世界から、一部昼間のように煌々と輝き放っている"モノ"が視界に飛び込んできた。



"ゲンジの小屋だ"



ゲンジの小屋が、勢いよく燃え上がっていたのだ。





その後、全焼したゲンジの小屋からドーナツのかけらと思われる"ソレ"をなぜか含み笑いで食べていた彼。

"うんうん、けっこういけるよ?"

そのセリフの意味は、皆目理解出来るわけがなかった。

(ゲンジはなにが? と言わんばかりに彼の隣でドーナツのかけらを食していた)



その後、全力でご両親にお叱りを受けたあと、貯めていたお年玉でゲンジの小屋を新調した僕らは2度とドーナツの話をすることはなかった。

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あれから長い月日がたち、
ふとあの頃を思い出しました。
かつて彼とは再現出来なかったあのドーナツ。
犬小屋を全焼させてまで再現したかったあのドーナツ。



今、是非皆様にご提供しようと思います。



様々な思いをのせたドーナツ。
長い年月を越え今、遂に完成です。
たまに揚げますので見つけた時には是非、ご賞味ください。



では、さよなら。